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 連載 どうして決まる?
「川の大きさ、ダムの大きさ 
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2007年 1月 第69号 浦田 伸一


 これからの太田川の整備をどう進めるか?その基本方針が、東京で行われている国交省の社会資本整備審議会河川部会で、この1〜2月に審議されることになっています。それを基に、当面の具体的な整備計画を作る委員会が地元で組織され審議を進める運びになります。その点で、今年は太田川の今後を考える節目の年になります。そこで河川の整備とは?どのような考え方で行われるのか?かつて河川計画の仕事に携われた浦田さんにこれから5回シリーズで執筆していただきます。(編集部)
 

1.河川計画の基本を皆さんと一緒に勉強したい。
(本記事の目的)

 今回の私の記事は、今まさに太田川の将来を左右する、平成9年の河川法改正で策定することになった「太田川河川整備基本方針」や「太田川河川整備基本計画」が決められようとしている中で、今までの治水計画はいったいどうだったのか?ということを技術的な視点から見つめていくことです。今までの治水計画の基本をおさらいすることで、これからの治水計画を理解する鍵が見つかるかもしれません。

 技術的な視点の細かい部分を知っておかないと、判ったような気分になって、見過ごしてしてしまうことが多々あるかもしれません。ですから、多少テキスト的でつまらない部分があるかもしれませんが、是非「治水計画とはどうやって決められているのだろう?」という基本を押さえていきたいと思うのです。

 また、私は河川計画の権威でもなんでもなくて、過去にコンサルタントの立場で河川計画の業務に10年ほど関わっていたという人間にすぎませんし、今は全く違う分野で働いておりますので、行き届かないところが多々あろうかとは思うのですが、そこの所はどうかお許しください。そして、私自身が誤解している部分もあるかもしれません。そんな場合は「その考え方は違うよ。本当はこうだよ。(あるいは、今の計画論はもっと違うぞ!)」とバンバンご指摘ください。皆さんと共に、「河川計画」をイチから勉強し直してみたいと思っています。
 
2.治水の歴史は洪水の歴史?それとも政治の歴史?(洪水処理の観点から)

 まずは、太田川の近代の計画を昭和初期まで遡ってちょっと俯瞰してみたいと思います。

 これから述べる太田川の治水(洪水処理)の歴史では、流域から流れ出る「流量」を基本に話が展開されます。文章の中には「基本計画高水流量」「計画高水流量」と言葉が出てきますが、荒っぽく言えば、「基本…」の方はダム等の洪水調節施設を含めた洪水対策の目標流量。「計画…」の方は河道工事のみの洪水対策の目標流量と言えます。ダムによる洪水処理が無い時代では「基本計画流量=計画高水流量」でした。

 昭和7年時点での基本高水流量は、大正8年7月の既往最大流量対象にして、太田川6派川分派前で毎秒4500立方メートルとされていました。その後、昭和18年9月および昭和20年9月に、当初の基本高水流量を大幅に上回る大洪水が発生したために、昭和23年に基本高水流量が毎秒6000立方メートルまで引き上げられました。さらにその後、昭和47年7月の大洪水を受けて、昭和50年では同じ太田川6派川分派前の基本高水流量が毎秒12000立方メートルと倍になりました。この昭和50年策定の「太田川工事実施基本計画」では、それまでになかった「ダム等洪水貯留施設による洪水調整」という概念が盛り込まれていて、基本高水流量が毎秒12000立方メートルのうち、ダム等洪水貯留施設などにより毎秒4500立方メートルをカットし、残りの毎秒7500立方メートルを河川で流すことになったのです。(出典資料・「太田川史」建設省中国地方整備局太田川工事事務所)

 ここで注目すべきは「高度経済成長期に、いきなり基本高水流量がいきなり2倍になった」と云う事です。これは、左のグラフをご覧になっていただくとお判りのとおり、この基本高水流量の変化は太田川のみならず全国の河川どこでも起こった現象です。
 
3.流量とは違った視点「洪水超過確率」の導入

 前章では高度経済成長期に日本全国の基本高水流量がいきなり跳ね上がったことを書きました。太田川での基本高水流量も昭和47年の洪水が契機とはいえ、毎秒6000立方メートルから毎秒12000立方メートルに引き上げられたのが、政治的判断の結果なのか技術的判断の結果なのかは一技術者でしかなかった私には理解が及ばない所なのですが、一つ言えることは、現行の「太田川工事実施基本計画」では「超過確率1/200」という概念が導入されたということです。

 「超過確率」とはまた、理解の難しい概念なのですが、「既往洪水だけ見て場当たり的に計画を立てるのではなく、200年に1回くらい起こりうる洪水に対してまでは整備の対象としよう」というものです。

 ちなみに、昭和50年に流量改定される前の毎秒6000立方メートルの「超過確率」は1/30だそうです。
 
4.次回予告

 次回はこのちょっと判り辛い(といいますか判ったようで判らない)超過確率について書いてみようと思います。太田川の治水計画の基本となっている「超過確率1/200」って一体どんなものなんでしょうね?お楽しみに!
 
 
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