●細見谷・大規模林道

 細見谷渓畔林を地域づくりに活かす!

〜吉和の自然をまるごと博物館に〜
2005年10月 第54号


 廿日市市吉和の細見谷林道計画(吉和西−二軒小屋・14.4キロ)の環境保全を検討している緑資源機構の環境保全調査検討委員会は去年6月委員会設置以来、予定を越えて審議を続行してきましたが、10月7日に開かれた8回目の会議でも結論が出ず、委員の任期も12月31日まで延ばされる状況になっています。今回は、この林道計画に反対するだけでなく、貴重な細見谷渓畔林を地元、吉和の地域づくりにどう活かしたいくのか?広島フィールドミュージアム会長の金井塚務さんにお話をうかがいました。 (篠原一郎)

 


 「細見谷渓畔林がいかに貴重な自然であるか?ということは、市民団体や学者研究者の皆さんの様々な活動で明らかになっていますが、その自然をどう守り、吉和の地域の人々の暮らしにどう活かしていくのかと言う議論はこれまであまりされていなかったと思います。この点について今日は金井塚さんのお考えをうかがいたいと思います。」

 
多様な自然が残る吉和

 廿日市市の吉和地区は人口も少なく(人口848人、407戸)、集落も小さいために周辺の里山やそのちょっと奥にも比較的広葉樹林が残っているし、その奥には原生的な自然も残っている人間が関わっている多様な自然=人間の関わりが多い所から小さい所=まで多様な環境がまだ残っている、という特徴があります。
こういう所は大きな産業を持ち込む条件がないし必要がないということです。そう考えると、ここでは地域全体、集落から細見谷のような奥地にある原生的自然をどう使うかというマスタービジョンを作りやすい。
 
馬や牛の林間放牧を

 これまで自然保護はお金にならないといわれていたのを、自然保護こそお金になるのだ、という話にしていこうということなんですが、そのキーワードは破壊しない、持続可能な、つまり自然の生産を人間の収奪が上回らない範囲の中で生産を息づかせることが出来る地域ということです。

 その一つがエコミュージアムの発想ですが、これはフランスで生まれた概念です。自然、文化、暮らしが博物館資料としてリアルタイムで動いているという地域ですね。安芸高田市の川根地区とか、島根県の瑞穂町もエコミュージアムの名乗りを上げていますが、どうも本当にそれが機能しているようには見えない。

 吉和で何をするかといえば、先ず人工林を間伐して広葉樹との混交林にしていく、その一部の山を利用して馬や牛を林間放牧をしていったらよいと思います。これはイノシシやクマの里への侵入を防ぐ効果も期待できます。そしてその延長上に観光事業を考える。これまでのお客さんを沢山呼び込む観光ではなく深い所で教育と結びつくこと、つまり地域の自然と文化の関係を体験、実感する、其れをキチンと理解して認識するところまで深めると言う教育的事業です。これがエコツーリズム、グリーンツーリズムということです。
 
専門ガイドによる
解説付きツーリング


 エコツーリズムとして、一つの方法は、ホースライディングが考えられる。北海道のどさんこ馬や木曽馬など在来種の馬や騾馬、ロバなど小型種の馬の利用がある。放牧にも適しているし、乗馬の訓練なしに乗れるから、例えば女鹿平山のスキー場や冠山だが、ここに草原から雑木林へのホースライディングトレイルを考える。
これは例えば、1チーム5人程度で、一人必ずインストラクター・ガイドをつける。このインストラクターは色んな技能を持っている。馬の取り扱いと乗り方の指導は基本になるが、そのほかに、自然そのものを解説できる能力がある、そういう人が森を解説をしながら歩くと言う、そういう楽しみ方が出来ます。

 吉和はなだらかな地域が広いから、そういうところで初級者は馬に慣れる練習をして、慣れたら奥の山へというステップアップしていく。勿論、雑木林などを歩いて観察することもあるが、小型の馬に乗って歩くと言うのは、クマと出会った際の危険を防ぐことにもなる。出会ってもヒグマではないから、馬を襲うことは先ずありません。細見谷渓畔林などは馬で入るのがいい。

 
 コースとしては、吉和地域を初級、中級、上級というように分ける。それを乗馬の問題だけでなく、訪問者の自然に対する知識、理解度も含めて考えて分けていく。特に細見谷は、いい所だから一人でも多くの人に見せてあげたい、という考えはとるべきではないと思います。

 細見谷の自然を理解するには、集落に近い里山から色んな自然を見た上で細見谷を見ると意味が理解できるということがあるので、そうすれば細見谷や、女鹿平、冠山の奥には入れる人は限られてくるし、オーバーユースにならない。いずれにしても細見谷は渓畔林の域内10キロくらいは一般車両の進入禁止にした方がよいと思います。

 また冬はスキーのクロスカントリーのコースを作っていく。今ももみのき森林公園でやっているが、もっと集落周りの雑木林などなだらかな所に広げてスキーの出来るインストラクターが冬の植物、動物の解説をしながら、観察をしていく。夏は馬で、冬はスキーでという、そういう教育プログラムとしての利用のシステムとルールづくりを考えていく必要があります。
 
有機農業の研修も

 馬や牛の林間放牧は夏の間だけになりますから、冬は畜舎で飼う。そこで出てくる糞尿を利用して堆肥作りをして、それを基礎に農業は有機農業に取り組んでいくことが出来ます。そこで考えられるのがグリーンツーリズムです。有機農業は労力がかかりますから、これまでお年寄りの労働に頼っていた農業を、農業体験、農業研修という形で訪問者が労力を分担をする。今は水路が3面張りのコンクリートで固められていますが、これも出来るだけ改修して、自然の形に戻して水生生物が田んぼと自由に行き来ができるようにすることが大切です。

 昔は田んぼに沢山棲息していて今は、希少種、絶滅危惧種になっているカエルなどの生物を復活させて、山林と田んぼが一体となった水田の生物多様性を回復させる必要があります。その点ではお年寄りは有機農業のインストラクターです。そして、そこで取れたものを農家の民泊で料理をして食べる。春は山から取れる山菜、秋はキノコがありますし、イノシシの肉鍋も出来る。人工林を間伐して広葉樹を入れていけば、山菜、キノコも多くなります。その間伐などの山の仕事も若者の林業体験、研修の一環として考えていく。このように自然丸ごと一体となって保全を考えながら活用していく。
 
若者の定着でコミュニティ再生を

 これまでのハコものづくり行政の発想を変えて地元の自然を活かしてそれを循環させていくシステムを構築していくことを考えることが必要です。大勢人を受け入れる薄利多売の考え方でなく、少数でも価値あるものを作っていくのです。こういうことを通して意欲のある若者の定着を促進して、コミュニティの再生を図っていくことが大切です。

 こうした吉和地区の自然と文化を活かしていく取り組みを地元の方々とNPO組織を立ち上げて全体の構想を固めることです。専門的な知識を持ったインストラクターを養成しなければならないし、それには地元の大学と提携したらいいと思います。またこのような西日本に残る貴重な渓畔林の自然と文化を活用した地域づくりとしてモデル地区の名乗りを上げ、今注目されている経済特区=構造改革特別地域=を廿日市市が申請すればよいと思います。吉和地区はそれだけの価値を持ったところです。資金力のある地元の企業、ウッドワンとか西山林業などの協力提携も必要でしょう。ぜひ地元の方々に呼び掛けて、話し合いを進めながら実現していきたいと思っています。
 
 
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