太田川水系の生き物たち−哺乳類−

(5)クロホオヒゲコウモリ

〜細見谷渓畔林に棲息する絶滅危惧種〜

 
 クロホオヒゲコウモリは体長4センチ、体重5グラムの小さなコウモリです。これまで、本州の近畿以東、四国、九州で発見されていましたが、中国地方では2001年8月に吉和冠山で初めて確認されました。クロホオヒゲコウモリは良好な広葉樹林が残されていないと生活できません。したがって、その数も少なく環境省のレッドデータブックで絶滅危惧TBに指定されています。これは西表島に生息している希少なイリオモテヤマネコと同じカテゴリーです。

 冠山では山頂部には生息しておらず、標高750m〜850メートルの標高の低い場所に住んでいます。バッドディテクターというコウモリの出す超音波を可聴域に変換する機械を使って冠山の渓流沿いで待っていると、クロホオヒゲコウモリの声を聞くことが出来ます。渓流はカゲロウやカワゲラ、トビゲラなどの水生昆虫が羽化して飛び回っています。クロホオヒゲコウモリはこれらを餌としているため、渓流の上を行ったり来たりしているのです。クロホオヒゲコウモリが生きていくためには、ねぐらとなる樹洞のできる大径木とともに餌場となる良好な渓流も必要なのです。
冠山の近くに細見谷渓畔林があります。ここは林道舗装をめぐって盛んに議論されている場所ですが、大径木からなる渓畔林や良好な水質の渓流があります。やはりここにもクロホオヒゲコウモリが棲んでおり、希少なクロホオヒゲコウモリの県内における数少ない生息地になっています。

 クロホオヒゲコウモリに近縁なコウモリにフジホオヒゲコウモリがいます。これは旧芸北町の臥竜山で確認されています。このコウモリもこれまで、北海道、本州の近畿以東で発見されていましたが、中国地方では2001年8月に北広島町の臥竜山で初めて確認されました。これまでの調査で、フジホオヒゲコウモリは臥竜山のみから見つかっており、クロホオヒゲコウモリは吉和冠山と細見谷渓畔林のみから見つかっています。このことから両種は芸北と吉和とに棲み分けているのではないかと考えられています。しかし、今後の調査が進んだらこれ以外の地域からも発見される可能性があります。

 いずれにせよ、これらの森林性コウモリは良好な広葉樹林が残されていないと生活できません。ですから、その存在すら知られずに絶滅している地域も少なくないでしょう。今のうちにそれらの生息地を明らかにしておくと同時に生息地となる広葉樹林や渓畔林を残す努力をしなければなりません。コウモリと言うと私達の生活とは無縁なように思いがちですが、森林生態系の一員としてきわめて重要な位置にある動物です。コウモリとの共存の模索が大きな課題となっています。
 
文・写真 上野吉雄
 
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