酷  暑   藤井直紀 2007年10月 第78号


 2007年のノーベル賞受賞者が発表された。平和賞はIPCCとアル・ゴア氏だそうだ。IPCCとは「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれる国際組織だ。ゴア氏はクリントン政権時の副大統領で、現在は「不都合な真実」などで地球環境問題をわかりやすく伝えることに努力している。これら二者の受賞理由は「人為的な地球温暖化問題を様々な人の共通認識になるよう促した」ことが評価されたとのことである。どちらも地球温暖化の問題にかかわっている。温暖化が起これば生物の生活も変わる、そうなればそれらを食としている人間はとりあうことになるかもしれない、つまり温暖化が進行すれば平和が脅かされるという想いのあらわれだろう。

 環境問題、温暖化という言葉は毎日のように耳にするようになった。住民も企業も、活動をするとき或いはモノをつくるとき、「環境」を気にとめるようになった。ゴア氏らの活動は、地球温暖化を社会的な意識として定着させ、その面では問題解決への第一歩となったといえるだろう。

 それにしても今年も「猛暑」だった。夏は暑いモノだと頭では解っているのだが、ついつい「暑い」を連発してしまう。それに、気象庁が設置している施設でこれまで観測した気温の記録中で、最高値が今年更新されたとか。岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市で観測された「40.9度」という値がそれだ。35度でも「やる気」が失せてしまったのに、40度越えって・・・。その他の地域も今年の夏は、それぞれの記録的気温になったところが多いようだ。この暑さをしのぐのにはどうすればいいか、そんなことを考え続けた数ヶ月だったような気がするのは私だけではないだろう。

 高かったのは気温だけではない。日本近海の海水温も平年と比べると高かったようだ。様々なところで1〜2度ほど高いというニュースが流れている。たった1度かと思われるかもしれないが、そこに棲む生物にとっては大きな1度だ。例えば、サンゴの白化現象。ある種のサンゴは褐虫藻を体に飼っており、それらが生産するモノを栄養の供給源にしている。暑くなるとそれが居なくなる。最新の研究では暑さでサンゴが弱り、サンゴ体内に細菌が侵入し褐虫藻を殺してしまうという現象もあるようだ。サンゴが居なくなればそこを住処にしている生物が困る。という風に影響は連鎖していく。

 水温上昇によってこれまで居た生物が居なくなり、亜熱帯地方の生物が入ってくる。そんなことも起きつつある。大阪湾では1.5度ほど例年より高く、亜熱帯地方に生息する大型アジが入ってきたり、これまで紀伊半島あたりまでしか発見されなかったオオバウチワエビなんかが現れたりしている。広島湾も例外ではなく似たような傾向にある。

 私が研究フィールドとしている宇和海も平年と比べると約1度も高かった。もともと亜熱帯性の生物が入ってくるのであまり気にはしなかったのだが、自動計測装置が送ってくる情報をみてびっくりである。

 先日、地元新聞社から電話があった。「タコクラゲというのが発生して居るんですけど・・・・」。タコクラゲというのは左の写真のようなクラゲである。脚(実際は脚ではなく「囗腕」というもの)が八本。褐色(サンゴと同様に褐虫藻を体内に飼っているのでそんな色をしている。褐虫藻の色がぬけて青白い色をした個体もみかける)で傘径5〜10センチメートルくらい、ゆったりとした泳ぎでなかなかかわいらしい。これが今年は宇和海で大発生した。宇和海だけではなく和歌山県白浜付近や徳島でも大量にみられたそうだ。徳島では例年みられることはない。

 宇和海でタコクラゲは夏になると普通にみられる。あまりめずらしくはない。めずらしくないので特に注目していなかったのだが、調査で船に乗っているとやけに数が多い。水面あちらこちらに茶色の斑点が出来たように浮いている。そうこうしているうちに9月ぐらいになると、漁港にたくさん集まっている。小魚の群れとタコクラゲの群れ。そんな構図になっている。釣り客も魚を捕るより、タコクラゲを捕る方が楽だっただろう。ただ、食用にはならないので(いや、なるかもしれないが誰も食べたがらないだけだろう)採る人は誰もいない。しかしまあ、こんなに多いのは初めてである。

 何故今年は、こんなに多かったのか。実際のところ私には解らない。タコクラゲは生活史も生態も研究されてはいる。だけど、宇和海でどうなっているのかは誰も調べたことはない。紀伊民報に久保田信准教授(京都大学フィールド科学教育研究センター)は「海水温か高かったからでは?」との意見を寄せている。果たしてどうなのか。今後の研究に期待である。いや、私か研究する! なんて。

 さて、最近はだんだんと涼しく、いや寒くなってきた。夜に原付で走っていると厚着が欲しくなってくる。だけど、昼間は暑いのでそんなものを持って外出はしない。そのうち体がおかしくなりそうだ。気温の変化が激しい時期なので、風邪にご注意を!

 
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