つれづれ 2007年 9月 第77号


 7月から、ブログをスタートさせた。
 「読解力のつく名言コラム」(毎週火曜日更新)を私が担当している。名言・名セリフ・名歌・名句などを題材に、気ままな感想を述べるというもので、特に小学生を対象としているわけではない。

 そこで採り上げた言葉をあらためて眺めると、その時々の精神状態が垣間見えて面白い。

第1回「お楽しみはこれからだ!」(映画『ジャズーシンガー』)
第2回「一畝不耕 一所不在 一生無籍 一心無私」(五木寛之作『風の王国』)
第3回「明日あると信じて来たる屋上に旗となるまで立ちつくすべし」(道浦母都子)
第4回「算術の少年しのび泣けり夏」(西東三鬼)
第5回「やり方は三つしかない。正しいやり方、間違ったやり方、俺のやり方だ」(映画『カジノ』)
第6回「考えるな、感じろ(Don't think,feel.)」(映画『燃えよドラゴン』)
第7回「四角い枠にこだわるな。キャンバスからはみ出せ」(岡本太郎)
第8回「父よ男は雪より凛(さむ)く待つべしと教へてくれてゐてありがたう」(小野興二郎)
第9回「この街の真ん中で降ろしてちょうだい!」(マドンナ)

 こんなにも自分を鼓舞しないとやっていけない人間なのか、と嫌になるくらい、「それ、がんばれ!」的なものが多いが、逆に言えば言葉にはそれだけの力があるということだろう。


 ところで、第2回で採り上げた『風の王国』は、いわゆるサンカを題材にとっている小説だ。サンカについては近年立て続けに参考文献が出ていてうれしい。五木寛之自身、『風の王国』の伝奇的内容を反省してか、あらためて『サンカの民と被差別の世界』を書いている。

 広島市近郊では、三篠川にも戦後しばらくはサンカが姿を見せていたという話を聞く。家を持つことも田畑を耕すこともなく、竹細工や川漁を生業としながら、河原に天幕を張っては、各地を放浪したというサンカが生き延びるには、現在の川の状況は少々いただけない。学問的研究は別として、その存在は永遠の(もうかえってこない)ロマンとして、語られ続けるだろう。


 もうひとつ、第6回(考えるな、感じろ(Don't think,feel.)」は、私の好きなブルースーリーの言葉だが、忙しい現代にあって、忘れてはならない文句のひとつであろう。

 先月、ペルセウス座流星群の降る夜を、私は龍頭峡で明かした。真夜中の竜頭峡は新月でもあり、漆黒の闇に包まれている。地面にシートを広げ、寝そべると、市内の星とは比較にならない数の星光に、圧倒される。時折、流れる星が、視界を横切った。がさがさっと藪を走る足音に頭を上げれば、白い兎が走るのが見えた。

 眠気を我慢しながら、夜明けを待つ。一番烏が鳴くと同時に、いっせいに山々が目覚める、そんな夜明けを待っていたのだけれども、竜頭峡の朝は深い霧とともに、ひどく静かに訪れた。虫たちが鳴き始め、時として獣の声が混じる。きつつきの音、そして、鳥たちがゆっくりと鳴き交わす。自然の営みと共に在りながら迎える朝は、何よりも素晴らしかった。

 そして、思い出した言葉が、「Don't think,feel.」であったのだ。自然についてあれこれ考えることはよい。しかし、考えること、思考すること、それを表現することは、何かを削っていくことではないか。むしろ、あるがままに感じとる、そんな瞬間が人間には必要なのではないだろうか。リーの言葉が、ふと聞こえたような気がした。

 
 
 
当ホームページ上の情報・画像等を許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます。