●若者放談(16)

 川魚を「よろこんでぇ〜」  牧江由太 2007年 2月 第70号


 「よろこんでぇー。飲食店で連呼されるこの言葉、だいぶ西日本にも浸透してきたような気がする。だがどうも違和感がぬぐい去れない。メニューの注文時はまだ分かる。「よろこんで作りますよ」を省略しているのだと想像しやすいから。だが、先日行ったラーメン店では、ある店員さんが「麺(ゆで)あがりまーす」と言うと、2,3人の店員が「よろこんでぇ〜」。こうなるといったい何に喜んでいるのかさっぱり分からない。まあ、ラーメンがおいしければ、いいのだけど…。

 長文を書くのがどうも苦手な私。関係ない話で行数をかせいだところで、本題。今回は、江の川がはぐくむ食べ物について書いてみようと思う。冬の食もなかなかバラエティに富んでいるのだ。

 「水深は50センチくらい。岸寄りの入江みたいになったところにたまっていた」。三次市の川魚のベテラン、タカシゲさんの寒バエ漁の話だ。「固まっておったら、色具合で分かる。魚がよおけおったら泡が出る。魚が腹をかえすので、黒い中でキラキラ光る。ずばりそこに行ったら、散って沖に出るから遠回しに入江の入り口から、パッと網を打つ。朝8時から3時ごろまで一人で25キロくらい。『よっしゃー』いうぐらいに入ったよね」と臨場感たっぷりに語ってくれた。寒くてハエが固まっている状態を「こごり」と呼ぶらしい。この冬は、こごりに投げ網を打って2回も大漁があったとほくほくだ。


 こんな話を聞くとさっそく食べたくなる。近くの料理店のメニューにあるのは知っている。早速次の日に行って、ハエの甘露煮を頼んだ。さすが三次の料理店。うまい。一方、素人でも手軽にできるのが素焼きだ。炭火でじっくりと焼く。しょうゆにつけると、パクパクいける。水温の低い時期の寒バエは臭みがないという。三杯酢で食べてもあっさりしているとタカシゲさんの奥さんに教えてもらった。
 

 ナマズの仲間「ギギュウ」はほぼ年中取れるが、3月頃からアユ漁が始まるころまでが獲り時のようだ。背びれと胸びれを擦り合わせてギーギーと音を出すからこの名前。骨が多くて他の地域では殆ど食べない。だが、江の川流域では、唐揚げにして甘辛いタレを絡めて、骨も一緒にポリポリ食べる。酒によく合う肴として人気も高い。酒があまり飲めない僕も、歯をしっかりと立てて噛み砕き、ちょっと焼酎をすすりたくなる。


 次もタカシゲさんに聞いた話。ウナギも川によって違うという。同じ江の川水系でも、比較的流れの緩い馬洗川のウナギは大きく、急流の西城川は頭が小さいという。ウナギは頭を見て食べたことがないなぁ。おそらく江の川産のは食べたこともない。今年は「これは西城川だね」などといいながら、食べてみたいな。

とはいえ川魚のプリンセスといえば、やはり夏の鮎だろう。塩焼きをたで酢で食べるのもうまいが、プロの川漁師タツミさんに教わった豪快な食べ方を紹介したい。

 「船の上でのぉ、頭をプチっとむしって、腹を出して、川の水でザバザバと洗って、塩をえっと付けんこーに、ちょちょちょっと付けて食べてみんさい」と満面の笑み。

 川漁師ならではの食べ方に驚く。食べた人は間違いなく「おお。これはッ」と絶句するうまさだそうだ。まさに舟上のぜいたく。ぜひとも、一回頼んで舟に同乗させてもらわないと、と思った。実は、生のアユをボリボリとかじる夢を、何度か見たことがあるのだ。けったいな夢やなろ思っていたが、あながりおかしなことでもないようだ。アユはキュウリウオ科。臭いもそうだが、先人はけっこうキュウリのようにかじりついていたのかもしれない。

 今シーズンの寒バエは好調だったようだが、夏に向けての川の様子はあまり芳しくなさそうだ。昨年の大雨で壊れた護岸などの修復工事が多く、濁った水が流れている。また、今年は近年まれにみる雪の少なさ。一番寒い時期にもかかわらず源流部分の山中にもほとんど雪がない。雪解けの適度な出水も期待できず、古い冬のコケが更新されず、アユには悪条件のようだ。

 ただ、先シーズンのように、雪が多すぎても水温がいつまでも冷たくて、魚の成長を阻害するそうだ。アユの多かった頃は、雨が降るように跳びはね、水量が少ないときは、川からキュウリのにおいが漂ったという。

 今年の夏は川魚をたくさん食べられるのだろうか。食べに行こうかと誘われて、「よろこんでぇ〜」と答えられることが増えるといいのだけれど…。
 
 
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