●若者放談(12)

 がんばれ!練習船 〜新造・豊潮丸〜 藤井直紀 2007年 1月 第69号


がんばれ、練習船
 海岸を研究するのにどうしても必要なのが「船」。最近では「リモートセンシング」といって人工衛星などから遠隔で観測する手法も確立されつつあるが、まだすべてが解るわけではない。やはり現場に行かなければならない訳だが、それにはどうしても脚がいる。海ではそれが船なのである。私もしょっちゅう船に乗って海に出るが、今回は練習船のことを書いてみることにする。

 

水産系学生の試練!

 水産系の大学や高専出身者が必ずっていっていいほど体験するのが、練習船での航海だ。私も水産系大学校の出身なので練習船に乗って航海したことがある。初めて乗ったのは水産大学校の練習船「耕洋丸」(国際総トン数2300トン)である。大学校三年生の時だった。下関港を出港して東シナ海で漁業や海洋観測機器取り扱いを体験し、途中石垣島に寄港、そしてまた下関港に帰港という約二週間の航海だ。航海の学科ではなかったので、『体験航海』気分で楽しかった(当然、航海の学科だあれば厳しいはず…)のだが、問題は船酔いだ。外洋ともなれば瀬戸内海のように穏やかな海と言う訳ではないので、船酔いになる学生が続出する。我々の実習航海中荒れることはなかったと記憶しているが、流の強い黒潮を横切る際にはどうしても揺れる。それでもたいていの学生は二、三日も揺られれば慣れてくる。酔わなくなれば「講義」以外の時間は楽しい。鯨が泳いでいるのを見たり、トロール漁で上がってくる魚やイカを調理してみたり。沿岸域しか知らない私には「陸が見えない」というのがすごく新鮮だった。

 水産大学校を卒業後、広島大学大学院に進学したが、ここでも練習船に乗ることになった。それは広島大学が所有する練習船「豊潮丸」(国際総トン数370トン)だ。昭和53年に造られた船で、私とは一歳違い。古い船だった。階段が急で何度滑り落ちたことか…。それにあちらこちらにガタがきている。某国の不審船ほどではないがホントぼろい船だった。それでも在学中、年に一度は乗船していたし、この船だ瀬戸内海をほぼ全域航海していることもあって親しみを持っている。今でも松山からフェリーで帰る際には、呉基地に豊潮丸がいるかどうか、確認してしまう。
 
四代目「豊潮丸」
 豊潮丸は結構研究者の中では親しみがある船だ。私の所属する研究センターでも乗船経験がある人が数人おり、中には二代目(私が乗船していた船より一代前)豊潮丸に乗ったぞ、という年配研究者もいる。また、広島大学出身のサックス奏者坂田明氏は「豊潮丸」という曲を作曲している。それほど乗船者に印象を残す船である。

 その豊潮丸が昨年末新造された。四代目豊潮丸である。つい先日、松山に入港したので見に行ってきた。機器もたくさん積んであり、実験室もきれいになった。瀬戸内海で使うかなぁと思うような装備も。まあ、研究の海域が広がるかもしれない。

 新豊潮丸も呉港を母港にしているので、大和ミュージアムなどに行った際にはご覧頂きたい。但し、年の半分以上調査航海やメンテナンスに出ているのでいない…こともある。
 
練習船の未来は… 
 実は日本の練習船・研究船・調査船は苦境に立たされている。なんといってもお金がかかるからだ。船は動かさなくてもお金はかかる。どの船もそれだけの貢献はしているとは思うが、一般の目に着くことが少ないため、理解がなかなか得られないのが現状だ。中には歳がきている船もあり、豊潮丸同様新造したいところがあるだろうが、なかなか認められない。南極観測船(自衛隊砕氷艦)「しらせ」新造だったやっとこさ…という感じだ。無駄な公共工事をするぐらいなら船を造って…と言いたいところだが、関係者だから言えることだと思われたらそれまでだ(苦笑)。

 追伸 水産大学校の耕洋丸も新造中。海洋大国を名乗るのならやっぱり調査もしっかりやらねば♪
 
 
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