●インタビュー
 太田川流域の木で家をつくる会 代表世話人 下田 卓夫さん 2001年5月 創刊号
HP:一級建築士事務所ラーバン
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どうしたら山が元気になるだろう
下田さん
―どうして太田川流域の木で家を作ろうと思われたのですか。

 「家づくり(下田さんは一級建築士として建築事務所を開いておられます) に携わっていて、職能として地域の環境問題に何か役に立てないか、と常に考えていました。

 広島というまちは太田川に大変な恵みを受けているわけですが、それは上流の山のおかげでもあるわけです。でも、今は上流の町や村に元気がなく、山も大変荒れています。
 
 その大きな理由として、流域の山で生産される木材がほとんど使われなくなった、流通しなくなったことがあります。木材が流通しないと山元にお金が落ちなくなりますから、それが過疎や高齢化に拍車をかけます。経済的なメリットがなければ、間伐などの山の手入れも進まず、森林が荒廃し、結果的に土石流災害や水質が悪くなったりと、太田川にも影響が出てきます。

 ここ数十年のうちに、外材などに依存する建築業の流通スタイルが定着してしまったために、こういう状況になってしまったわけです。でも、もともと私たちは古くからそれぞれの川筋の山に生える木で家を作ってきたんですから、家づくりに携わる者として、少しでも山元が元気になって、山が、川が元気になるのをお手伝いするには、この流通システムに風穴を開けるしかないんじゃないかと思いました。それは、既成の組織、流通形態に縛られない、新しい、『お互いの顔が見える』家づくりのネットワーク、私たち設計者がサーバーになって、施主・生産・技術者間のネットワーク、いってみれば『循環』を構築することになり、とても魅力的な取り組みだと感じたんです。

 それに流域材で家を作るということは、ちょうど地元で生産される食物を頂くのと同じように、『素材の分かった、温もりのある家に住みたい』という都市側の住まい手の希望に応えることにもなるんです。」

 
―具体的にはどんな活動を?

 「最終的には、流域材を使って家を建築するのが私たちの仕事ですが、その前に、住まい手、大工さんや製材所等の業者さん、木を供給する山元がお互いに顔を合わせて学び合えるよう努力しています。森林組合の方や大工さん、設計者などが参加するセミナーや座談会を企画して、施主さんが家づくりを業者任せにせず、素材からご自分の考えで積極的に関わることのできるようなシステムを作っています。

 また、森林ツアーを実施して、自分たちの家に使う木が生えている現場を見てもらい、施主さんと木を育て伐る山元や製材業者さんにお互いの意見を交換していただきます。同時に、林業体験などで、都市側の方々に山元の現状を肌で感じていただき、山元の方々には自分たちの山の木を利用される方の思いを理解してもらって、より質の高い素材を提供するよう取り組んでいただければ、と考えています。」

 
山・都市両方に新しい価値観が必要では―

 今後流域材が下流の都市側の建築素材として重要なポジションを占めて、山元と下流の経済的な循環が発展していくには、何が必要だとお感じですか?
 
「木材を使う施主さんの側から考えると、コストというものを、物の売り買いのそのときだけで判断せず、トータルに考えられるような新しい物差しが必要ではないでしょうか。たとえば外材で建てた家の方が国産材で建てた家より安いといわれます。

 でも、木を伐ってから最後に家が壊されてごみになるまでの環境に与える負荷まで考えに入れるとどうでしょうか。私たちの環境に対する意識を高めるためにも、そういった物差しで物の価値を計ることがますます重要になると思います。逆に、木を提供する山元の側に立てば、従来のように木を伐って丸太を生産するところまでしか考えるのではなく、乾燥、製材、そしてその先の建築まで見通して、より質の高い素材を提供する努力をすべきだと思います。そのことが、国産材、流域材の競争力を高めることになります。

 そのために、林業と製材が手を組むなど、都市側に質の良い素材を提供できる仕組みを作るべきだと感じています。まずは、常に山元に何棟分かの素材のストックができている状態に、それが経営的に成り立つ状態にならなければなりません。いずれにしても、ここ数十年間に作られた流通システムの固定観念にとらわれないことが大事だと思います。」

 

―今年の活動の目玉はなんですか?

「実は今年度、日本財団の里山保全活動の助成金を頂くことになりました。 そして、手入れをしたらそれで終わるんじゃなくて、たとえば間伐材を使って家具を作ったり、山の恵みをできるだけ有効に利用することを楽しみながら学べたら、と思います。作業をすると、『ウッド』という単位の通貨のようなもの(エコマネー)をもらえるようにします。それが、その山の木で家を作ったり、間伐材で椅子やテーブルを作るときにお金の代わりをするようにします。山に行くことが楽しみになって長続きするように、また、いろんな形で、市側と山元との間にメンタルな面だけでなく、経済的な交流が発生するように工夫します。それが中山間地が、ひいては山が元気になることのお手伝いになれば、と願っています。」

―最後にメッセージをお願いします。

「流域材を使った家づくりに興味のある方はお気軽にご連絡ください。今年もセミナーや森林ツアーなど、楽しいイベントを企画しています。里山保全活動にもぜひご参加を。」
インタビュー 平成13年2月27日 原哲之
 
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