三代目春駒小林一彦の明日はヨイヨイ 【特別寄稿】

カワ!カワ!カワ!われ奇襲に成功せり
2006年 4月 第60号

 
 天災、いや、天才は忘れた頃にやって来る、、、、、、ン?! 違う違う!今回は、編集スタッフS氏に泣きつかれて急遽ピンチヒッターを請け負った次第ダス。よって連載再開ではありませぬ、ああ、ありませぬ。さて、あいかわらず反省の色のない俺の近況はと申しますと、コンペで勝ちとっちゃいましたよ、今年度の広島市観光ポスターを。パチパチパチ〜。

 ほとんどの読者諸兄はご存じとは思うけど、俺はコピーライター兼アートディレクターそしてときどきミュージシャン、ナレーターとして日々をかろうじて食い繋いでいる。で、そんな恵まれない俺に友人のアートディレクターから「広島市観光ポスターのコピペにエントリーしない?」とのオファーがあったのは2カ月前のこと。かつてデザインプロダクション在籍時代は、某大手広告代理店とのタッグで毎年コンペに参加していたものだが、約10年挑戦し続けて取れたのはたった1回のみ。他のコンペではかなりの高い打率を誇っていた俺も、こと、市の観光ポスターに関しては今期カープ同様に、貧打の極み(4月18日現在)一瞬迷ったけど、今回は代理店サンも関わらないというし、こちらのアイデア主導で案外のびのびとやれるかもな、なにしろヒマだし。そんなノリで、声をかけてくれたディレクター氏、フリーランスのデザイナーH女史、カメラマンA氏、俺の4人でコンペチームを結成。提案ポスター制作にあたって、まずは知っているつもりの我が街広島をもう一度、頭をリセットして勉強し直す必要あり。そこで行動派コピーライターを自負する俺は早速チャリンコに跨って市内を東へ西へ駆け回りつつ、新しい広島市観光ポスターの核となりうるコンセプトに思いを巡らしてみましたとさ。

 そして、肌で感じた結論。やっぱりカワ、カワ、カワ!川の都よ、広島は。街の中に川が流れているというよりは、川に沿ってあらゆる文化が発達した世界的にも希有なデルタ都市が広島だ。「こら春駒ぁ。そんなもん、最初からわかっとるわい!」と憤慨する当編集スタッフS氏のような御仁もいらっしゃるであろうが、誠意ある広告屋としては、全国に広島の特長を訴求する際、この「当たり前のこと」をしっかり捉えるのが最初の一歩。そうでない、つまり誠意のない広告屋とは、素材の持ち味を無視し、粉飾決済さながらにあることないことでっちあげ、必要とあらば少々カラダに悪かろうが化学調味料や合成着色料の大量投入も辞さない。そんな「食えない」観光ポスターに引っ掛かって、実際に足を運んでみたら見ると聞くとでは大違いじゃんか!と失望する人は少なくないのである。
 
 
 さて、「水の都」といわれて久しい広島なれど、これまでは無駄と思える護岸・埋立が目につき、市民県民を逆に水辺から遠ざけているような事業が目についた。でも、今回、市もNPOもなかなか面白いアクションを水辺に展開していることがわかり、けっこう新鮮だった。

 そのひとつが、国の特例措を受けて2005年に開業したばかりの水辺のオープンカフェ「京橋R−Win(リバーウィン)」。全国では初となる河川利用の独立型オープンカフェで、現在、牡蠣生産者直営のオイスターカフェをはじめ、計4店舗が営業中。来客数も予想を大幅に上回り、今後は猿候川周辺でも出店が検討されているというウワサもある。そういや戦前の猿楽町あたりの土手には、芸者が出入りするような粋な料亭がいくつかあったという話を、親戚のジイサンから聞かされたことがある。

 また、NPO「雁木組」が運営している水上タクシー、名付けて「雁木タクシー」にも大注目だ。昔から広島は、生活物資の運搬に川を上手に使っており、その名残が市内を流れる6本の川の護岸にある「雁木(がんぎ)=船着場」である。新旧含め約300もあるそうで、このうち50カ所を発着場に、観光だけでなく通勤や買物にも利用してもらおうというわけ。やるねぇ〜。

 こうした新しい魅力と、古くからある見どころが広島氏は「川」によって余す所なくリンクするのである。これに気付いた時点で俺はポスターのタイトルを「ぐるっと広島、川辺めぐり」とわかりやすく命名。広島市中心部を「川(もしくは水辺)のテーマパーク」ととらえ、オープンカフェ、雁木タクシー、リバークルーズなど、川から見た広島の新しい魅力を織り交ぜることで、「眺めるだけの川しかない広島」から「食べ、遊び、楽しめる川辺のある広島」へのイメージ訴求転換が図れる。またデザインは大判ポスターとしては異例ではあるが観光雑誌の誌面風レイアウトで文字情報と写真をたくさん詰め込んでみた。こうすることで人は思わず「なんじゃこりゃ?」と興味はそそられ立ち止まって見入ること間違いナシ。

 そんなこんなで出来上がった入魂のカンプ(提案用デザイン)を前にし「これなら絶対取れるで!前祝いでもしちゃおうか?」などと余裕のジョークも飛び出すほど俺らも自信満々。無事プレゼンを済ませ、待つこと数日。厳正なる職員投票の結果、見事最高得票でグランプリに輝いたのである。あーこりゃこりゃ。

 ポスターは3月末に納品終了。そろそろ全国主要の駅などに貼られているんじゃないかと思うので、よかったら見てやってください。最近では太田川で採れる黄金シジミを「太田川シジミ」という名でブランド化を図ろうとする動きもあるし、太田川下流域がヤケに元気。秋葉市長も「広島の日常は他県から見れば非日常の面白さがある」とコメントしておられたが、なるほど、とってもイケてる水の都広島を俺も再発見した気分でおます。ただし、それを上手な表現でアピールせんことにゃ、宝の持ち腐れのまま終わってしまう。環境保全運動もそうだが、「中身で勝負」とか言っていたんじゃいつまでたっても広がらん。やっぱり見た目のイメージは大事っすよ。
 
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