●三代目春駒小林一彦のあしたはこっちだ(20)<イキナリ最終回>

 カタツムリ式移動物件の魅力 2005年9月 53号

 
 20代最後の夏、俺は某ハンドメイドログハウスメーカーでログビルダー(ログ専門の大工)のアシスタントをしていた。当時はバブルが弾けた直後ながら、別荘地はまだよく売れており、ログハウスの需要も大きかった。しかし、そんな別荘地として分譲されているエリアに出入りしているうち、面白いことに気がついた。当然の事ではあるが季節によって環境が大きく違うのだ。一番は日照の問題。山を無理矢理切り開いて作られたある物件など、春から初夏にかけての一時期は陽当たりがよく、「おおっ、いい場所だな〜」と思う。ところが夏が過ぎ、秋になると日差しが山に遮られ、冬にはほとんど一日陽が射さぬガチガチの冷蔵庫状態と化す。「土地を買うなら一年間じっくり観察しんさい。陽当たりはどうか。風の向きはどうか。雨はどう降るか。ある時期だけ見て決断すると後悔するでぇ」と、ログの親方も言っていたが、なるほど、バブルに浮かれて安易に手を出したであろう物件のいくつかは、その極端な環境変化が災いしてか、次第に足が遠のき、ほったらかし状態となっていた。

 街の環境だって変化する。俺が住むこの段原南の一等地に越してきた3年前、前の大通りは通行量も少なくて実に静かだった。しかし、イオン宇品やソレイユが出来たあたりから車は日増しに増え、今では空気も悪くなったし、煩わしくて窓を開けるのも憚られる。

 また、最近聞いた別の話。ある人物(妻子あり)が埋立地に出来た某高層マンションを購入した。当初、担当営業氏がセールスポイントとして挙げたのが「こちらのベランダ(10階)からは宇品みなと祭りの花火が一望出来ますよ!」であったのに、購入契約を済ませてすぐ、そのマンション予定地の真向かいに宇品方面のロケーションを丸ごと遮るかっこうで別のマンションが建ち、「結局一度も花火を拝めんかった」とこぼしていたという。俺はこの一件を詐欺とは思わない。周囲に他人が所有する土地があればそのような危険性はありうることだ。


 ううむ、結局のところ「終の住処」なんつーのは俺にはありえんな。なにしろ飽きっぽいしな。何十年もローンを組んで家やマンションを購入するなんて考えられんし。そう思っていたところ。先日、理想の物件に出会ってしまった。いや、物件というより正確には「車両」なのである。

 テレビで紹介されていたその車両、「トレーラーハウス」という。文字通り、トレーラー式の引っ張って移動できる家なわけで、キャンピングカーなどよりはるかにデカくてゴージャス。キッチン、リビング、バス&トイレ、ベッドルームやクローゼットまで付いている。60、70年代のアメリカ映画には、このトレーラーハウスを荒野の辺鄙な場所に設置し、住居として利用している世捨て人(カウボーイ、作家、ミュージシャンとか)がよく出てくる。ええのう、俺もマネしたいのう、といつも憧れていた。広島でも安佐南区にこれを専門に扱うディーラーがおり、かなりの人気らしい。同区八木にはそれをりようしたお洒落なシーフードレストランもあるげな。

 日本でこれを住まいや店舗として使用する場合、あくまで<車両扱い>だから、固定資産税がかからない。車両といってもエンジンがついていないから自動車税も同様にフリー。つまり土地さえあれば車両代(300万円〜)+ガス・水道・電気等のライフライン設置費100万円ちょいで<家>が手に入る。なにしろ、その土地やロケーションに飽きたら「移動出来る」のがエライではないか。

 そんなわけでまたまた閃いた。こういうのを過疎で苦しむ地域で購入し、若者に安く提供してはどうだろう。経費も家を建てるよりは随分安く済むし、とにかくカッコイイのでウケもいいはず。もちろん、場所が不評であれば移動すればいい。定住促進というよりは仮住促進であるが、住んで居心地が良ければやがて根をおろしてくれる。大きな決意を要するものはリスクも高く敬遠されるが、化粧品と同じで「お試し期間」があれば、トライする人は増える。トレーラーハウス、太田川上流部や漁村でも絵になると思いますぜ。

 おっと、俺の親族が野呂山の中腹に広大な土地を持っていることを最近知ったのだが、「好きに使ってええど」とのこと。トレーラーハウスを引っ張って行き、スタジオにしちゃおうかな〜。でへへっ。



< 追 記 >

 前号の読者からのお便りの中に、俺のコラムに対する批判が匿名希望さんから載せられていたので編集部にかわってきっちりお応えします。「世代のギャップを感じる」「内容が太田川のことにふれられていない」とのことですが、このコラムのスタイルは、編集スタッフの故テッツンと熟考を重ねて意図的に決定したものです。全般的に内容が固いので、最初のページで頭をほぐすようなユニークな笑える内容にすること。環境問題全般を考える上で、課題提起となるような内容にすること(太田川に関連した記述がなくても可)。若者の読者を増やすべく、今風のタッチで書くこと。以上の三点に留意して、書かさてもらってきました。しかし、この連載も20回。その前の「あしたはどっちだ?!」シリーズを含めるとなんと48回目となります。ここらで色々思うこともあり、勝手ながら今回をもって連載を終えることにしました(表紙イラストはしばらく続けます)。これまでおつきあいいただいたすべての読者の皆さん、編集スタッフの方々に心より感謝申し上げます。いつかまたどこかで。
 
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