●可部線

 可部線問題がなげかけるもの―さらに一年間の試験増便へ― (2001年5月 創刊号)


 2001年三月二十日、JR西日本と可部線対策協議会は、可部線可部.三段峡間の存廃について、四月一日から一年間の試験増便を再開することで合意した。

 「規制緩和」という錦の御旗のもと、「ローカル線廃止に周辺自治体の同意を必要としない」という鉄道本来の存在意義を全く無視した法律が制定され、その最初のターゲットにされたのが可部線だった。しかし、太田川流域住民の思いが、公共の交通機関の運営にまで経済効率を最優先するJRの目論見を阻もうとしている。
 
可部線問題が教えてくれること

 私たちは一年間の試験増便という前回以上の難問を突きつけられ、これからもありとあらゆる手を使ってみんなで可部線に乗らなければならない。同時に、これを機会に、可部線問題が私たちに何を投げかけてくれているのか、足元を見つめなおしてみるのもいいのではないだろうか。
 
モータリゼーションの行きつく所は?

 現在の主な交通手段は都会だろうと中山間地だろうと自動車だ。高度経済成長期以降一貫して、この国は「モータリゼーション」を至上命題としてきた。その結果、鉄道路線は、東海道・山陽新幹線と首都圏・近畿大都市圏在来線をのぞいてのきなみ「健全な経営状態にはない」とされている。

 一方で、つい最近、広島市内の中国地方最大の交差点では、「車の流れをスムーズにするために」人間が地上を横断できなくなった。かつてコンピューターが人間を支配するというSFが流行ったが、一足先に「人間が車に支配される」時代がやってきた観がある。「モータリゼーション」も来るところまで来たようだ。

 しかし、前頁でも触れた「太田川サミット」のテーマ、「サステイナブル・コミュニティ」から眺めると、可部線の廃線も紙屋町交差点の横断歩道廃止も、「自動車の利用削減のための交通計画」という要件に反していることは言わずもがなである。

 21世紀はできるだけ自動車に頼らない、拠点間の移動をできるだけ環境に負荷をかけない形で行える社会を建設することが大きなテーマになる。太田川水圏でも「自動車の利用削減のための交通計画」を具体的に立てるべき時期に来ているのではないか。

 今回の廃線問題によって、むしろ可部線を、水圏全体が「サステイナブル・コミュニティ」になるために欠かすことのできない交通システムの一つとして位置付けていくチャンスに恵まれたとは考えられないだろうか。
 
太田川上・中流域と下流域の関係は?
 
 別の角度から可部.三段峡間がなぜ大幅な赤字路線なのかを考えたとき、日常生活の中で太田川上流の方々が下流の都市圏に出勤することはあっても、都市に住んでいる方が上流の中山間地に通勤して携わる仕事がほとんど存在しないという現実にぶつかる。

 経済活動における都市と中山間地の一方的な関係が赤字という形であらわれている。鉄道が永く経営的に成り立つためには、日常的に双方向に人が流れなければならない。

 しかし、いまいちど「サステイナブル・コミュニティ」の考え方に戻れば、都市と中山間地、太田川でいえば上・中流域と下流域の「一方的な関係」が「持続可能」でありうるはずはないことは一目瞭然である。
 そしてそれが日常のあり方を問うものである以上、生業(なりわい) の問題であり、私たちが「サステイナブル・コミュニティ」実現のためにどんな仕事を創り出せるか、太田川の上流域・中流域・下流域がどう「持続的に」支えあっていくかという問題だと言い換えることもできるのではないか。
 ここでも、高度経済成長期が作った「仕事」や「お金儲け」に対するイメージは通用しないだろう。なぜなら、現在の都市と中山間地の一方的な状況は、まさに高度経済成長によって現出せられたものだからである。前頁の繰り返しになるが、今まさに「発想の転換」が求められている。

 たとえば、「可部線に乗って広島から太田川上流域に通勤し、駅から自動車で移動して山の手入れをする。」という仕事があってもいいのではないか。太田川水圏が「サステイナブル・コミュニティ」になるためには、広く人の流れが循環する仕事はいくらでも創り出せるのではないだろうか。

 可部線問題は、私たちに太田川を軸とした新しいコミュニティー建設の方向を探るために、天が与えた試練なのかもしれない。
 
まず使いやすいダイヤを
 
 一年間の試験増便では、日常生活でどれだけ可部線が利用されるかがカギを握る。最低でも、沿線住民が日常利用しやすいダイヤで運行してみなければ可部線の必要性を論ずることはできない。前回の試験増便中のダイヤは積極的に可部線を利用させようとする意図が感じられる物ではなかった、という声が多い。JRは融通を利かせて沿線住民が最も利用しやすい運行形態を模索すべきである。 (哲)
 
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