写真・絵画で甦る太田川

写真・絵画で甦る太田川 
(71)芸北ふるさと餅

 もう20年余りも前のことになるが、時代と共に忘れられてゆく地元の食生活を若い人たちにも知ってもらって、古里を見つめる目を持ってもらおう、という趣旨で企画された「芸北町ふるさと運動」という行事があった。酷しい暮らしの中で先人達が如何に知恵を働かせ生きてきたかを考えさせる多くの材料を提供してくれた。その中の一部として、「芸北の餅いろいろ」を紹介しておこう。種類は次のように多い。
()内は材料。

(糯−もちごめ。粳−うるち米)
 ▽よもぎ餅(糯、よもぎ、木灰)
 ▽うらじろ餅(糯、オヤマボクチ)
 ▽ほうこ餅(糯、母子草の若葉)
 ▽こうぼう餅(糯、弘法稗の粉)
 ▽あらかね餅(糯、粳)
 ▽だんご餅(糯、粳の粉)
 ▽てんこ餅(糯、屑米の粉、よもぎ)
 ▽うのはな餅(糯、うのはな、粳の粉)
 ▽粟餅(糯、粟)
 ▽栃餅(糯、栃の実、木灰)
 ▽そばのはご餅(糯、屑米、蕎麦のはご)

 これらは全て量の多少はあっても糯が入っていることに違いはないが、それを節約して量を増やすことを考え、同時にその季節に応じた自然の素材を組み込んでいるところが評価できる。「よもぎ餅」は今もどこにでもあるけれど、蓬の採取から加工に関しては伝統の手法があったようである。雪解けの頃に小さい蓬を摘んで搗いた餅は色鮮やかで柔らかい。しかしそればかりでなく、初夏まで待って一年分を採集しておき、大鍋で煮て杓子灰をして柔らかくし、天日干しして叺に入れ、屋根裏で保存する。(杓子灰というのは杓子を湯で濡らして灰に突っ込み、細かい灰をつけて鍋の中の蓬を混ぜること)

 うらじろ、母子草はどちらも山野に自生する草で、母子草は春の七草のひとつ。うらじろの方は果実の毛を昔は火起こしの際の火口にし、葉は乾かして煙草の代用にしていた。田植えが済んだ一日、村の住民が申し合わせて山行きして採集していたようだ。弘法稗は乾燥したやせ地でもできて病害虫にも強いので、救荒食糧として栽培した家もあった。

 あらかね餅とだんご餅はどちらももち米とうるち米とを混ぜたものだが、あらかねは初めから混ぜて蒸して搗くが、だんご餅の方は粳は粉にして熱湯で練っておいて糯と混ぜて蒸し、搗く。さらにこれに「うのはな」(おから)を入れて搗いたものが「うのはな餅」で、餡を入れたり、きな粉をまぶして食べると美味しいという。

 栃餅は栃の実を水に漬け、乾燥させ、皮を潰し、中の実を洗い、あく抜きし、といった搗く前の行程に手間があるのが難点。

 これらの餅はどれも混ぜるものの割合によって味が大きく変わる。古い時代ほど糯の割合が少なかった。(てんこ餅だけはどうやっても美味しかったという記憶がないそうであるが・・・)『ふるさとの味』より。
(幸田光温) 
 
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