『いのちの森 西中国山地』 田中幾太郎 著 (光陽出版社、1995年)

 太田川、高津川、錦川の源、陰陽の分水嶺―西中国山地。西中国山地には、太古の昔からブナを中心にした豊かな森が広がり、そこに生活するすべての生きとし生けるものの働きが、滋養豊かな「生命の水」を「醸造」してきた。

 そのことを鋭い感覚と深い知恵でとらえていた私たちの祖先は、標高700メートルを超える「深山(みやま)」には、里の暮らしの守護神が住むとして、ほとんど立ち入ることさえしなかった―。ところが、1950年代からの「文明大革命」は先人たちの「不文律」を顧みることなく深山の森をなぎ倒してスギやヒノキの人工林に作り変え、里の暮らしを激変させた。その結果―。

 本書には、西中国山地の深山や里山に今も暮らす、あるいは絶滅してしまった19種の生き物たちの生き様が描かれている。同時に、「生物共同体」の一員として彼らに深い感謝の気持ちを持ちながら暮らしてきた先人達との関わりを語り、それを壊してしまったこの五十年間の私たちの絶望的ともいえる現実を、深い悲しみと憤りとともに見つめている。

 「私たちは、ふる里の不条理な異変を少しでもくいとめながら、未来の子供たちがふる里の豊かな自然との交歓を取り戻せるように『自然なヒト』の努力を再起しなくてはならない。」(本書「おわりに」より)

「いのちの森 西中国山地」は、県立図書館などで借りて読むことができます。書店でも注文可能(本体1554円)。

 
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